人を愛玩動物と捉えたら犯罪だと思う
[2012年1月10日 修正]
「・・・鮎川」
その声は先程までの諫める声とは異なり、警告に等しい。年齢的には長谷川よりも鮎川の方が年上である。
が、忌々しい話だが立場が長谷川の方が上である以上、逆らう事は侭ならない。鮎川は長谷川を一瞥する。
「・・・ちっ・・・」
歯噛みする様に舌打ち一つ、鮎川は突き放す様にの手を放す。そして突き飛ばす様に距離を置いた。
勢いを殺し切れずに少し足元がよろけたが辛うじて立て直す。そして銀時の隣に足を進めて鮎川を見遣る。
(・・・なさけなぁ)
溜息
同時に後悔が募った。情けない。まさかこんな単純な事で感情的になってしまうなんて思いもよらなかった。
しかもそれを二人の前で晒してしまうなんて。失態にも程がある。抑えるつもりが、全然自制出来なくなった。
「大丈夫!?ちゃん」
傍に近寄った新八が案じるように尋ねる。それに対し「大丈夫やでー」と、へらりと笑いながら言葉を返した。
すると銀時にまたくしゃりと頭を撫でられた。その感覚が擽ったくて少し身を捩った。心が少しだけ安堵する。
どうやら隠そうと思っても銀時にはバレバレならしい。
入国管理局の長谷川泰三と言えば天人の出入国の一切を取り締まる幕府の重鎮。所謂『エリート』である。
助手席で不機嫌そうに窓の外を睨むバーコードハゲのおっさん
入国管理局の副局長を務める。不似合いなカツラが浮いているとは言うまい。そんな者達が何の用なのか。
鮎川とは過去に何らかの因縁があったらしい。そのせいだろうか、二人の間の空気は殺伐としている。
温厚な性格のにしては珍しくどこかしらピリピリとしている。話しかければ笑顔で応えてはくれるものの。
先程から鮎川とが犬と猫のように睨み合っているためか、車内の室温は明らかに降下する一方だった。
春先にも関わらず車内の温度は極寒の真冬状態に陥っている。嗚呼、目的にはまだ着かないのだろうか。
「何の用ですか、おじさん」 「万事屋つったっけ?ちょっと仕事を頼みたくてね」
『金さえ積めば何でもやってくれる奴がいる』という、万事屋の巷の噂を耳にしてどうやらやって来たらしい。
幕府の重鎮に対する敬意を感じさせない銀時の言葉。それを特に気に留める事もなく長谷川がそう答えた。
そして煙草に火を点ける。しかしはもともとあまり煙草を好まない。臭いに敏感に反応して眉を顰めた。
「・・・車内で煙草やめてもらえません?副流煙の被害被りたくないんで」
単なる八つ当たりに過ぎない。喧嘩腰に等しい刺を感じさせる口調。「そら悪かったね」と、長谷川が答える。
発言に気分を害するわけでもなく長谷川はそう言ってあっさりと携帯灰皿で火を消してくれた。お人好しだ。
「おい長谷川、ネコの言う事なんざ聞く必要ねぇよ」
そんな長谷川の行動を見ていた鮎川が不快げに言い放つ。の言うが侭が気に入らなかったのだろう。
「おい言葉は慎め」と、注意を促す長谷川の言葉にすら鼻を鳴らすだけで反省した様子は一切見られない。
余程、の存在が気に食わないのだろう。
二人に因縁があるのは言うまでもない。が、此処まで険悪になるなんて一体過去に何があったのだろうか。
その理由は銀時さえも知らないらしい。1年前にお登勢から紹介されて、それ以前の話は深く聞いていない。
相棒という関係である以上、話題に挙げても可笑しくはなかった。が、不用意に踏み込むことはしなかった。
そもそもその問いは本来の依頼である『誇りをとりもどす』ということに反するような気が何となくしたからだ。
それにしてもこんな風にピリピリとしたを見たのは久し振りだ。基本的にそう滅多に怒ったりしない娘だ。
「おまえらなんかあったわけ?」なんて不用意に聞いたら地雷を踏むようなものだろう。それは好ましくない。
依頼は須らくしてスマート且つ手早くこなすのが銀時延いては万事屋の経営理念である。蛇足は要らない。
つまりわざわざ地雷を踏むような無益な真似はしない。それに急く必要もない。それが必要なことなら尚更。
時間を置いても何れはの口から語られる。それが無いと言うことは未だ触れる必要のないことなのだ。
「共生ねェ・・・んで、俺にどうしろっての?」
相変わらず、微塵の興味を示す事もなく銀時は鼻を穿りながら言葉を返した。これが依頼に対する姿勢か。
とは言え、出すものを出してもらえるなら他に興味はない。感情移入や深入りするべきではないだろうけど。
「俺達もあまり派手に動けん仕事でなァ・・・公にすると幕府の信用が落ちかねん」
参ったとばかりに肩を竦めて長谷川が答える。幕府の重鎮がが何たる体たらくだ。情けないことこの上ない。
詰まる話、公にするわけにはいかないが、自分達だけでは解決出来ないと言うこと。嘘も方便ということか。
否、嘘ですらないけれど。(結局役に立ってへんにゃん)。内心思う。頼むから給料に見合う仕事をしてくれ。
話しによると、央国星の皇子が地球に滞在しているそうだ。その名前を聞いて最初に浮かぶのは一人だけ。
彼を忘れた事なんて片時もない。と、表現だけはロマンチックでも忘れられない経緯はロマンの欠片もない。
あの馬鹿皇子もといハタ皇子がまた問題起こしてくれたそうだ。嗚呼、どうしよう思い出したら腹立って来た。
「・・・・むしろ皇子が問題やろ」
長谷川の言葉に耳を傾けながらは窓の外の景色を眺めながらぽつり吐き捨てた。溜息混じりの言葉。
その言葉に「知ってるの?」と、当然だが疑問に思った新八が問う。知ってるも何も巻き込まれた張本人だ。
肩を竦めてにが笑った。全ては語るまい。というか、この短時間で語り尽くせない。だがこれだけは言える。
『出来れば、会いたくないわ・・・・・』
それもう かなり切実に 彼女はそう言った
ハタ皇子の「ペットを探して欲しい」との依頼に銀時と新八は思わず呆気に取られた。案の定、帰ろうとする。
(ですよね、うん。気持ちは分かるよ)。あれだけ仰々しい熱烈歓迎の末にこの依頼内容では割に合わない。
は銀時に腕を引かれながら後を追った。が、銀時の腕を掴んで長谷川が引き留めた。それを振り払う。
とは言え、長谷川も如何に馬鹿らしい内容であろうとも仕事は仕事。完遂しなければならない為、退けない。
「うむ?そこにおるのは余のネコではないか・・・探したのじゃぞ」
そう言ってテコテコと駆け寄って来るハタ皇子。咄嗟には銀時の後ろに身を隠した。皇子が一歩近付く。
同時にがまた一歩後ずさる。状況把握が追い付かずに銀時達は目を丸くして二人を交互に見遣った。
「さわんな変態」
そんなを気にも留めずにハタ皇子は懐かしむようにに手を伸ばした。が、その手は振り払われる。
更に冷ややかに吐き捨てられる。まるで猫の仔のように毛を逆立てているにハタ皇子は目を丸くした。
「ど、どうしたというのだネコよ!余を忘れたのかっ!?」
だが理由をまるっきり分かってないハタ皇子にしたらその拒絶は衝撃でしかなかった様だ。落ち込んでいる。
むしろどうして理由が思い至らないのか不思議でならない。その鈍感っぷりがさらに苛立ちに拍車を掛ける。
(・・・っこいつ・・・自分が悪いことしたって意識まったくないし!タチ悪っ!!)
怒りと呆れが混じる
「うっさいマロ眉!いっそ忘れたかったわ!このバカ皇子っ!!」
今まで堪えていたものが一気に溢れる。一歩踏み出してハタ皇子の胸倉を掴んで引き寄せると言い放った。
「ちょっ!お嬢ちゃん!一応バカでも一応皇子だから!!」と、無礼とも取れるその某言に長谷川が窘める。
が、本音が駄々漏れだ。
「何が気に入らなかったというのだ、ネコよ!余はお前が逃げて寂しかったのだぞ!?」
「気に入らん?当たり前やろ!お前さ、普通人に牛乳と猫缶だけで暮らせとか強要するか?アホやろ」
「何を言うか!ネコに缶詰と牛乳は当然の組み合わせではないか!!」
「だから人やっつってるやろーが、このボケ!腹下すやろ!!つか、せめて猫缶やるなら水にしろよ!!」
「そうかネコよ。牛乳だったことが気に入らなかったのだな・・・それは余が軽率だった」
「いや、猫ちゃうから」
「わかった。おまえがそれを望むならそれをやろう。だから余の元に戻って来るのだ」
「やーかーらーっ!猫ちゃうっつってるやろ!?あんた全然分かってへんやんかっ!!」
二人の会話がまるで噛み合ってない。傍からその話を聞いていた新八を含めた周囲は頭を抱えたくなった。
まるで飼犬に手を噛まれたかのような衝撃を受けているハタ皇子。残念ながらお前は加害者だと言いたい。
同時にに対する同情の念が沸いた。経緯は分からないが監禁紛いのことをされていたというのだから。
「いや、その・・・ひとまず落ち着こう?ちゃん。バカ皇子の首締まってるから」
落ちつけと間に入って新八が宥める。が、それは妨害行為でしか無く、反射的にに思い切り睨まれた。
思わず怯んだが、我に返ったが「あ、ごめん・・・」と、呟いた。少し落ち着いたことにこっちが安堵する。
が、ハタ皇子に対する苛立ちは止まないのか突き飛ばす様にその胸倉を乱暴に放してフイッと顔を背けた。
「おめーら何かあったわけ?」 「首輪の持ち主。つか、原因」
なるべく地雷を踏まない様にと心がけて、頬を掻きながら銀時が尋ねる。不機嫌を隠そうともせずに答える。
が此処まで不機嫌なのも珍しい。咄嗟の言葉に理解が遅れたがそう時間を置かずに意味を理解した。
首輪とは銀時とが出会った時に酔った勢いで首の薄皮ごと叩き切ったアレの事を指しているのだろう。
人間の、しかも年頃の女子に首輪を付けるなんてどんな趣味してんだ、と、当時は思ったもの。が、アレだ。
「あ〜・・・その、何だ。オメーも大変だな」
「ですよねー。首輪付けて飼われそうになったり、下手したら首ごと持って行かれそうになったり・・・」
「しっかり根に持ってんじゃねーか」
「持たないとでも思ってんの?薄皮切られといて」
しっかり地雷を踏んでしまった。なるべく刺激しない様にと選んだ筈の言葉が更に連動爆破させてしまった。
明らかに厭味を含んだ言葉に銀時は引き攣り笑いを浮かべる。「大丈夫」と言っていたのはどこのどいつだ。
とは言え原因は自分も担っている為、下手なことは言えない。あれは酔った勢いですべきことでは無かった。
「二人とも落ちついて下さいよ!っていうか、僕にも分かるように説明してください!!」
今度はと銀時の間で問題が勃発しそうな雰囲気だ。そこで慌てて割って入る新八。状況説明が欲しい。
あまりにも置いてけぼり過ぎて全く話が読めない。その言葉にふとの動きが止まる。不利に振り返った。
「・・・・聞きたいの?」 「いえ、あの・・・よろしければ聞かせて欲しいです。スミマセン」
先程まで銀時に向けられてた笑みが今度は自分に向いた。思わず丁寧語になる。(ヤバいやられる!!)。
本気で思った。が、それでもの事を知りたいと思った。自分はまだあまりにも彼女の事を知らないから。
人を愛玩動物と捉えたら犯罪だと思う
[2012年1月10日 修正]