「オイオイオイオイ・・・・・大概にしとけって」

折角大人しくなったのに発砲なんてしたら元の木阿弥。鮎川が引き金を引くと同時にその手を蹴り上げた。
乾いた音が空に響き渡る。それで事無きを得たなら良かったのだが人生そう上手くはいかないものらしい。
空を劈いたその音にペスが再び興奮を呼び覚ましてしまった。抗う間もなくの視界が不意に反転する。

ちゃん・・・っ!」

気遣う様に新八が声をあげる。が、それに応える余裕は無かった。というか、段々と頭に血がのぼって来た。
ペスの触手がの足を捕えて宙吊り状態にしているのが現状だ。周囲はざわつき銃を構える者さえ居た。

が、


「っ・・・ちょ!撃たんといてや?!」

「大丈夫やから」と、がそれを宥める。少し視線をずらしペスに目を向けると案の定かなり興奮している。
この状況でペスに発砲するのは逆効果。とは言え、説得してどうにか落ち付いてくれそうな雰囲気でもない。
かなり上まで持ち上げられているからとても景色がいい。(あ、この眺めいいな)とか、考える余裕が出来た。

「言ってる場合か?嬢ちゃん」

呆れた様に長谷川がそう言うが、それでも部下達を制している辺り、の我儘を聞き入れてくれるらしい。
だが流石にペスの口がかなり近付いて来ると焦りも出る。え、何?この子マジで食べる気なんですか?、と。
確かにペスの好物は猫の燻製らしいがはネコであっても猫でないわけで餌から除外されるわけでして。
・・・というか本当に現物支給してたのかあの馬鹿皇子。後で絞める絶対絞める。と、は堅く心に誓った。

「つか、くっさ!ちょ、ペス・・・無理無理!私、餌ちゃうから!ネコやけど猫ちゃうから!!」

「マジ臭いって!」と、鼻を摘みながらペスに意見するが、それを聞き届けてくれる筈は当然ながら無かった。
ペスの大きな瞳と目が合う。相変わらず円らで愛らしい目をしてるとは思うが実際は死んだ魚の目だ。
かなり至近距離になって流石に拙いと思い軽くペスの口周りを軽く抓った。ら、逆効果だった。振り回される。

容赦ない力で振り回されて頭の中はシャッフルされるわ、流れてく景色に流石に酔いそうになるわ、散々だ。
途中で手を放されなかっただけマシと思うべきかも知れないが、それってまだ食べる気はあるということだ。
宙ぶらりんのままの姿勢がよくないのか思考がいまいち一貫しない。今、最優先にすべき事柄は何なのか。


「流石に言ってる場合じゃねぇだろ・・・!」

状況は悪化の一途を辿っている。流石に無傷で捕獲はもう無理だろう。狙撃許可を長谷川が出そうとした。
が、それを視界に映したが「撃つなっつってるやろ?無駄なことさせんといて!」と、余裕もなく怒鳴る。
怒鳴ったのは言うまでもなく頭に血が上って冷静になれないのに余計なことを考えさせるなという意味合い。

「・・・・・大丈夫やから。ちょっと吃驚しただけやんな?」

「な?」と、再び接近したベスの頭を撫でようと手を伸ばした。が、当然届く筈もなく目の前には真っ白な牙。
(うっわー綺麗な歯)と、再び現実逃避しかけるが、その協力な口臭に半ば強制的に我に返らされた。溜息。

お腹に力を入れて身体を起こそうとする。が、そんな腹筋なんて無い。「・・・運動不足」と、銀時が小さく呟く。
「うるさい!」と、苦し紛れに反論するがなまじ否定出来ないものだから悲しい。負けるもんか。深呼吸一つ。
指先で三角形を描いてそれに意識を集中させる。指先から粒子状の金色の光がペスに向けて放出された。
光がペスを包み込むと不意にペスが動きを止めた。その眼が緩々と上下に揺れながら少しずつ落ちていく。


「きっつ!つかもう限界!」 「ちょっ!誰か!早く救助!!この子、臨界点突破しちゃってるーっ!!」

宙ぶらりんの状態で意識を集中するのは自殺行為だと身を持って学んだ。ふらふらとしながらそう口にする。
ペスの目と同様にの目も相当やばいことになっていたのだろう。長谷川が慌てて部下に命令を下した。
コントロールの利かない状況下での能力の使用だった所為か、強制的な鎮静にベスは地面に倒れ込んだ。

「・・・うん。偉かったねペス。てか、強引でごめんな」

突然、足を放されて落下したが落ちた先はペスの体の上。おかげで痛みは懐柔されたが少し、傷に響いた。
そのイボイボを撫でながら立ち上がろうとする。だが、立ち眩みを起こしかけて反射的にペスの腕を掴んだ。

地面に下りた後、新八が慌てた様に駆け寄って来て「大丈夫!?ケガはない!?」と、もの凄く心配された。
そんな新八に向けて小さく笑ってピースで応えていたの後頭部に衝撃が走る。原因は言うまでもない。
後からやって来た銀時が本気ではないが手抜きでもない加減で頭を殴った。親にも殴られたことないのに!


「・・・痛いんですけど?」
「痛くしてんだから当然でしょうがチャン」
「うわぁ・・・このひと今、ドSな発言したよ!ちょっと聞きまして?新八君」
「え?あ、えっと・・・」
「テメーいつまでもボケ倒してんじゃねーよ。しまいに怒んぞ?」

もう怒ってるくせに。とは、流石に口にしなかったが新八の背後に身を隠しながらはアカンベーを返す。
小憎たらしい反論しかしないに銀時は笑顔を引き攣らせながらその首根っこを捕えて引き摺り出した。
銀時は心配してくれていることは分かった。だからそれ以上の反論はしなかったし、悪かったとは思ってる。

でも、


「・・・・・暴力じゃなくて口で行ってもらわんとわかりませーん。あと、暴力反対!」

と、口から出るのは可愛げもない言葉ばかり。吐き捨てて顔をフイッと銀時から背ける。バツの悪そうな顔。
だがそれも一瞬のことですぐに新八の方に目を向けて「新八君もそう思わへん?」だなんてほざきはじめた。

「言ってくれんじゃねーか」

と、先程よりも邪気を感じる笑みを浮かべ銀時が口にする。良からぬものを感じては頬を引き攣らせた。
反射的にヤバイと感じてじたばた抵抗する。が、それを銀時があっさり逃す筈もなくの首をヘッドロック。
身を捩ろうとした瞬間、不意に膝がかくりと折れた。咄嗟に銀時が支えて地面に座り込むことは無かったが。

ちゃん大丈夫!?」

傍に居た新八が心配そうに駆け寄る。銀時に視線を向けると、心底呆れた様な顔をしてこちらを見ていた。
その視線を受けてはますます居心地の悪さを感じる。銀時が心配してくれていることは分かっていた。

ああ見えて一番心配性で、なかなかの過保護なのだ。そんな庇護の中に居たから怪我をすることも少ない。
自ら飛び込んでいった場合、話は別だけれど。最初の頃はよく止めていたが、最近では諦め始めたらしい。
それでもいつだってのことを気に掛けているのは知っていた。たとえ言葉にする事が無かったとしても。


――時間を共有した結果。



「・・・・・今度はその男に懐いたか。ネコ風情が」

怒涛の展開に放心状態にあった鮎川が我に返ったのか再び嘲る様に言い放つ。新八が反論しようとした。
が、それを遮る様には新八の着物の裾を掴んで止めた。そして無言のまま鮎川の言葉に耳を傾けた。

彼は歌う様に、嘲り言葉を紡ぐ。

ネコは餌と安穏の地を求めて流離う化け物だ、と。仮初の愛をひけらかして己の楽園を手に入れようとする。
その土地が気に入らず飽きれば振り返ることもせずに捨て、また新たな地を求めて旅立ちそれを繰り返す。
恩を知らず大義を持たない生き物。災厄の根源であり忌み嫌われる存在に安穏の地など存在する筈ない。


「擦り寄りで得た場所など居心地が悪かろう。何れは疎まれるのだからな」

留めとばかりに告げられた言葉はネコを指すものではなく自身に向けられた言葉であることは明白だ。
は無言を貫き反論しなかったがその言葉に対し新八は強い憤りを感じた。なんて身勝手な言葉だ、と。
彼がどれほどネコに対して強い憎悪を抱いてるのかは知らない。知る由もないがそれはあんまりな言葉だ。

別に擦り寄りで見つけた場所なんかではない。今こうして一緒に居るのは誰の意思でも無く自分の意思だ。
新八も、銀時も、も。皆、自分の意思で万時屋に居る。それを勝手に嘲る権利など鮎川は持ってない。
否、鮎川だけでなく誰一人としてそんな権利は持ってない。誰かを否定して好い筈無い。そうだというのに。


「・・・・仮に、」

新八が横目で窺う様にに目を向ける。は不意にへらりとした笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。
鮎川を見据えるその瞳は先程と比べて穏やかだ。気に食わないのか鮎川が不快感を露わにし眉を顰めた。


『そうやったとしても、誰かに居場所を指図される覚えないよ。私の居場所は私が決めるんやから』

迷いのない声、真っ直ぐな瞳――。


「・・・ネコよ、余の元に戻る気はないのか?」

不意に口を挟んだのはハタ皇子。皇子にとってはもまた一方的ではあるものの大事な家族なのだろう。
その視線に困惑と同時に居心地の悪さとほんの少し罪悪感を感じた。が、それを受け入れる事は出来ない。

しかしハタ皇子の行いを思い返すと許せないところもある。屈辱を強いられることより尊厳を奪われたこと。
許せないというよりも哀しかった。抗う気力さえ殺がれたあの頃を思うと、どうしてもあそこには戻りたくない。

それに知ってしまった。

この一年間で、とても心地良く感じる場所があったこと。出て行けと言われるならまだしも、自分からはない。
それに自ら離れなくても何れ別れの日が来ることを知っている。だからその日が来るまで身を置いてるだけ。
仕方なくではない。確かに最初は流れに身を委ねて始まった関係だったが今は自分の意思で此処に居る。


「・・・・猫は選ばれるんちゃうよ、自分で選ぶ。私は今の場所が好き」

「だから戻らない」と、そう暗に込めて子供に言い聞かせる様にそう告げた。ガックリとハタ皇子が項垂れる。
「ペスも失い、ネコも失うと言うのか・・・」。今にも泣きそうな皇子に苦い思いが募るがそこで折れたりしない。
妥協すればあの頃に戻ったりしかねない。としてもそれは望むことではない。だから首を縦に振らない。

皇子の中では既にペスは処分されるものと思っているのかも知れない。だがそうじゃない。方法は一つある。
「殺すな」は通らなくてもこれなら余地はある。先程も進言した。おそらく可能性があるのはこれだけだと思う。


「皇子が元の場所に返す許可したらベスは死なへんよ」
「しかし余の傍にはおらぬのだろう?」
「ん〜・・・まぁそうなるかも知れんけど、皇子はペスが死ぬよりかマシやろ?」
「しかし・・・・・」
「選ばなあかんからなぁ・・・哀しいけどペスを元の星に戻すか、それとも永遠にさよならするか」

まるで子に言い聞かせる母親の気分だ。辛抱強くハタ皇子に言い聞かせると少なからず伝わったのだろう。
ご自慢の触覚はしょんぼりとさせる。ハタ皇子だって本当はどの選択肢が一番良いのか分かっている筈だ。
ただ子供染みた我儘が納得してくれないだけ。友達と離れるのは誰だって寂しい。嫌だと思うのは当たり前。


「・・・・・余はペスに死んで欲しゅうない。愛する家族なのだ」

ハタ皇子にしては稀な神妙な面持ち。その言葉にホッとしては小さく笑みを浮かべた。良かったと思う。
彼がそれを選んでくれて。やはり動物好きに悪い人はいない。勝手な思い込みかも知れないがそう思った。
息子もまたペスを家族と称するほどに愛を注いでいる。そんな彼がベスの死を望む筈ないのは一目瞭然。

「長谷川!最後の命令じゃ!ペスを・・・ペスを元の星に戻す手配をせよ!」

高らかに皇子が命令を下す。その言葉に何の疑問も抱かず長谷川がこくりと頷き部下に手配を急がせた。
物を言うのは皇子の権力。国は荒らせどペスは人を殺さなかった。そこに皇子の権力が加わればどうにか。
賭けに等しかったがどうやら勝てたらしい。は人知れずホッと息を吐き銀時と新八の傍に足を進めた。



「何というか、万事解決・・・ですかね?」 「みてぇだな」

命令を受けて忙しなく動き回る役人達を眺めながらホッとした様に新八が呟いて、銀時がそれに短く答えた。
視線はペスを元の星に戻す段取りの打ち合わせに勤しむの背中。スマートと言えないがやり遂げた。
無茶苦茶で危なっかしくて仕方が無いがそれでもどうにかなったから大したものだと感心する反面、呆れる。

「ふ、ふざけるなっ!貴様が自由になることを認める筈がなかろう!!」

不意に背後で鮎川の怒声が響き渡った。話は纏まったというのにまだ難癖を付けるのかと鬱陶しく感じる。
心底鬱陶しそうに振り返ったが「・・・認めるも認めへんも、あんたが決めることちゃうやろ?」と、告げた。
だが不意に鮎川がにやりと不敵な笑みを浮かべ銀時の方を一瞥すると口を開いた。「それはどうかな」、と。

「貴様が決める問題でもなかろう。幕府の力で連れ戻すことも可能なのだ。なぁ、万時屋」

明らかに銀時も何か知っている。それは見てとれたが敢えて言及せずは事の流れを見守る事にした。
「・・・銀さん?」と、新八がおっかなびっくり尋ねる。「あー・・・」と、銀時が何とも言い難そうに視線を漂わす。
鮎川の言葉よりも無言で銀時に目を向けてくるの視線が痛い。場合によってはを怒らせかねない。

には敢えて言わなかったが、嘗てネコを追跡する幕府の連中が万時屋に依頼に訪れたことがあった。
滅多にない二重依頼だった。もちろん「居ない」と答えて、得意の知らぬ存ぜぬを貫き押しとおした事がある。
気にするだろうことは目に見えていたから教えなかったのだがそれがまさか此処で裏目に出ると思うまい。


「・・・・・どういうこと?」
「万時屋は貴様如きを庇って幕府に虚偽を申しておるのだ」
「・・・で?」
「それを公に晒せばその処遇も想像はつくだろう?」

平静を装いは言葉を返す。が、その言葉が酷く単調なことから相当怒っているだろうことが見て取れる。
少なからず衝撃を受けた。否、正直吃驚した。同時に銀時に対して酷く憤ったことも否定はしない。どうして。


「嘘じゃねぇよ。実際うちにゃネコなんざ居ねぇからな」

空気を読まずに言葉を続ける鮎川に銀時は内心舌打った。そして、その言葉を否定するように言葉にする。
それに嘘を言った覚えなど一度もない。事実、万時屋にネコなんて居ない。招き入れた覚えとて当然ない。

「ネコは居ない、ならば居るのは何だ?」 「言っただろーが、うちにはネコそっくりの小娘だけだってな」

「よく寝て、自由奔放で扱い難くて仕方ねぇ」。物は言い様とはよく言ったもの。銀時はしれっとそう言い放つ。
平然と言ってのける銀時が口から先に生まれた男という表現をされるのは強ち外れてないとは思った。
その言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのは何も鮎川だけではない。も微妙な顔になった。


「そんな屁理屈が通用すると思っているのか?幕府を通せば「幕府幕府ってうっさいなハゲ」」
「ハゲ・・・!?小娘が歯向かう気か!!?」
「ハムもはにかむも、文句あったら言うにきまってるやんか。そこまで制限される謂われないわこのハゲ!」
「いや、一言も合ってませんから・・・」
「つかさ、どいつもこいつも根本的に勘違いしてへん?」

鮎川が激高して怒鳴り返そうとする。が、その言葉に重ねる様にしてが躊躇う事もなくそう吐き捨てた。
何度言うつもりなのか「ハゲ」とご丁寧に相手の一番気にしているだろう単語を含みわざと相手を挑発する。
もちろんそれに対して新八も突っ込みを忘れない。が、それさえも無視してはハッと鼻で嗤って言った。


「人間如きにねこが飼い慣らせるとでも思ってんの?」

猫は逃げる生き物。何度も口にしてきたが自分の居場所だって自分で決める。誰にも命令なんてされない。
誰かの指図なんて受けない。仮にがネコだというなら自分とて同じ。自分が居る場所は自分で決める。
これでもこの場所は結構気に入っているから。選んだのは自分。他じゃない。捨てられない限り此処に居る。


「案外、万時屋の飼い猫も悪くないしな」

口元に浮かんだ笑みが、発した言葉が、まるで本物の猫のように見えた。何物にも囚われない自由奔放さ。
どいつもこいつもという言葉に誰が含まれているのかは知らないが、飼い慣らそうなど滑稽だと彼女は笑う。
一瞬言葉を失った鮎川だったがハッとした様に口を開こうとした。真実を知り尚こんな事をほざくのか、と。


が、


バキッ

鈍い音が響く


「オメーが加わるとややこしいっつーか、しつけーんだよ」 「ちょっと黙っててください」

鮎川の側頭部を殴ったのは銀時と新八だった。小さく呻き地面に倒れ込んだ拍子に亜麻色のズラが落ちた。
事の展開が遅いことにイライラし始めていたらしい。その瞬間だけ、二人の息がぴったりだとは思った。

「余のネコにはなってくれぬのか?」

の言葉に名残惜しそうに反応したのはハタ皇子だ。というか、まだ諦めていなかったのかと少し思った。
「・・・悪気なくても人に猫の餌を与える様な場所では生活できひんよ」と、首を横に振ってそう言い聞かせる。
「改善したら余の元に戻って来るのか?」「いや、無理。今の場所が好きやし離れたくない」と、応答が続く。
皇子の哀しげな瞳が突き刺さったがそれでも折れたりは出来ないし、しない。それがの出した答えだ。


「・・・・・」
「それでも友達にならなれるやろ?」
「!!」
「動物好きに悪い人はいーひんし、そんな皇子のことは好きやで?」
「ネコよ・・・!!」
「いやいや、ネコちゃうって・・・

項垂れる皇子に肩を竦めて笑いながら言葉を投げ掛けた。予想外だったのか、弾かれた様に顔を上げる。
飼われるのは御免だが友人になることは厭わない。バカだけどハタ皇子が優しい人なことはよく分かった。


・・・ネコの名か?」
「・・・やからネコちゃうって言ってるやん。そーです!がネコちゃんの名前ですよ〜」
「うむ。、よろしくするのだぞよ」
「今ネコって言いかけたよね?言いかけたよね??」

握手を求める様に手を差し出せばの手をハタ皇子の丸っこい手が掴み返した。自然と笑みが浮かぶ。
とは言え、まだ拙さは残る。当分はネコ呼ばわりされそうだが、それも少しずつ改善してば良いだけの話だ。
出会いは最悪のひと言に尽きたが、これからはゆっくりと二人のペースで新たな関係が構築出来たら良い。



「おい!」 「夕飯の時間だし、帰りますよ!」

不意に背後で銀時と新八の呼ぶ声が聞こえた。振りかえると新八が「ちゃん急いで!」と、手招きする。
銀時は付き合ってられるかとばかりに先を歩きはじめていた。「ほら帰るよ」と、言われて顔がにやけてくる。
自分もあそこに帰って良いんだと言われた様な気がして、無性に嬉しくなった。こそばゆくて、でも、温かい。

「ちょっと!置いてかんといてよ!!」

無意識に口元が緩みそうになるのを隠す様に僅かに俯き声をあげる。そして皇子に「またね」と、手を振る。
そして二人の後を追いかけた。少し先で銀時が「さっさとしろよー」と、いつもと変わらない調子で言っていた。
新八が「走ったらこけちゃいますよ」と、を待ちながら言う。そんな二人の背中に思いっ切り飛び込んだ。


――やっぱり、此処は居心地が良い。


だから、



(・・・・・離れられないんだよなぁ)

頬が緩んで仕方ない


話が長いのはいくない

[2012年1月10日 修正]